海外留学者からの手紙

Surgery at Indiana University School of Medicine(アメリカ)

米国留学と英語

2018年秋,アメリカでの2年間の研究留学を終えて帰国し,臨床に復帰してから早くも1年と少しが過ぎました.この間,手術を含めた多くの臨床経験や研修,学位取得など様々なことがあり,アメリカで生活していたことが遠い過去のようにも感じます.

アメリカではインディアナ州にあるインディアナ大学Surgical Education Researchのチーム に所属し,その分野では現在世界で最も権威のある一人であるDr. Stefanidisより指導を受けました.日本では倉島先生が「外科教育」を牽引しており.毎年開催しているSurgical Education Summitは,回を重ねるごとに全国からの参加人数が増えています.2019年には6回目となり,ゲストスピーカーに私の師であるDr. Stefanidisを迎えました.Surgical Educationの根幹と彼のエネルギーを参加者の方々に肌で感じていただけたことと思います.

さて今回は留学とは切っても切り離せない,英語のお話です.留学から帰って久しぶりに会った人も,初めて会った人も,留学のお話をするとふたこと目には「元から英語できたんでしょ?」「英語ペラペラなんだね!」となります.とんでもない.留学すると自然と英語得意になるというのは大きな間違いです.まず最初は何を言っているかさっぱりわかりません.今まで学習してきた「単語」が聞こえないのです.流暢すぎて単語の区切りがわかりません.友人,同僚たちは易しい言葉で話してくれますが,そうでない人たち(お役所など)はおかまいなしです.これは外国人と話す日本人との大きな違いです.日本人は見た目が外国人であるというだけで「この人は日本語を話さないだろう」と思いがち.アメリカは様々な人種がいて,様々なアクセントのある英語が飛び交います.ネイティブスピーカーのような英語を話していなくても,英語に不自由な人とは見なされないのです. つまりアクセントはあまり重要ではありません.これは英語を勉強する日本人に声を大にして言いたいところで,英語の発音の良し悪しは「英会話ができる」かどうかには大きな問題ではないのです.そして相手の言うことを理解してもしていなくても,とにかく「言葉を発する」ことが重要です.様々な人がいるからこそ,何でも言葉にしてコミュニケーションをはかります.しかしこれが,「控えめ」かつ「察する」ことを良しとする日本文化とは異なるのでなかなか難しい.

少しずつ慣れてくると,今度は思ったことを正しく伝えられないことにもストレスを感じてきます.英語漬けになって2年経つ頃には,一対一の会話は何とかなるものの,他の人たちの会話は慣れないスピードや単語,イディオム,スラングなども入ってくるので,所々ついていけなくなります.相手の言うことが理解できない,自分の言いたいことを言えない,というのは精神的疲労が強いものです.10年以上アメリカに住む人にとっても,まだ不自由なく会話できるようにはならないそうです.

とはいえ,私の留学していたオフィスはほぼ全員アメリカ育ちでしたし,プライベートも含めて日本語を話す機会はほとんどありませんでした.英語に触れるという意味ではとても恵まれた環境でした.ようやく異国生活に慣れた頃に留学を終え,日本に帰ってくると最初は戸惑いました.日本語にすぐ反応できないのです.英語脳になってしまった私には,一度耳に入ってきた日本語を咀嚼しなければ意味が飲み込めませんでした.起きしなに寝ぼけて発した言葉は英語でした.英会話がままならない割に,言語処理能力は英語寄りになっていたようです.

しかしせっかくここまでたどり着いたにもかかわらず,日本で生活していると英語で会話する機会はほとんどありません.たまにインディアナの友人と話すと,言葉がなかなか口から出てこなくなります.たった2年の英語生活は,30何年もかけて身に染み付いた日本生活に簡単に埋もれてしまいます.Surgical trainingも然り,継続することが大切です.アメリカのTV番組の動画を見たり,頭の中に浮かんだ独り言を英語にしてみたり.忘れがちですが,インプットだけでなくアウトプットも練習が必要です。

英会話力を身につけるには,①継続して英語に触れる ②(何でも良いからとにかく)言葉を発する.アクセントは気にせずに

これに尽きるのではないでしょうか.

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