消化器外科Ⅱ大学院の紹介

大学院教育の理念

教室では12年一貫全人的外科教育システムの中で、5年目以降のおよそ3年間を大学院で学ぶことを標準としています。なぜなら、理想的な外科医に必要な「客観性に耐えうる考察力の習得」を大学院進学の第一の目標と定めているからです。

考察力は、すでに知っている知識をたどることで経験したことのない問題を解決する能力です。未知の問題に対する回答は、客観性が高く一貫性があるものほど真実に近付くはずですが、実際の臨床現場では、自分の考えを客観的な厳しい目でみることができず、主観的で自己満足的な考え方に陥ってしまい、真実を探究することをふと忘れがちになることがしばしばあります。したがって、大学院での研究は問題が生じた際に広大な情報の海から必要な知識を自力で探しだし、より説得力のある回答を創造し、真実により近づくための訓練といえます。

全ての患者さんは、たとえ同じ病名、病期でもその病態は異なります。これから出会う患者さん全てが未知の病態を呈するとも言えます。大学院で学ぶ「真実に近づく訓練」こそが、将来の外科手術、外科臨床において、様々な病態を正確に把握し、より多くの患者さんを救う最高の武器になると考えています。

基盤医学コース

実際の臨床現場では様々な疾患との戦いにおいて、医療者が大敗をきすることがしばしばあります。例えば、完全に切除しきれたと確信していた癌患者さんがたったの数ヶ月後に遠隔転移(切除困難な領域への転移)を来したり、はたまた局所(癌がもともとあった場所)に再発を来たしたりと、一筋縄ではいかないことも多いはずです。いったい、どのように癌は転移するのか?転移や再発を防ぐ手立ては無いのか?この多くの「?」から基礎研究はスタートします。臨床で生じた多くの疑問を糧に、そして治療者という立場から一旦、少しだけ横にずれて、疾患の、あるいは病態の本質について、真正面から向き合うことができるのが基盤医学コースでの研究です。

実際、臨床では経験できない高水準の知識と、高い精度が必要とされる実験手技をゼロから学ぶことで、将来、外科臨床医として欠かせない新たな手技に対応する能力、判断力など総合力のトレーニングとしても役立ちます。実験研究では、わずかな手技の差が結果を左右するため、失敗と挫折を繰り返しながら技術の精度を高める訓練を行うことになります。この過程で、研究者は能力向上や意識改革などの点で秀でた、理想的な外科医マインドを形成するための教育を自ずと受けることになります。

教室では分子生物学的研究を独自に行うことができる研究室を有しており、2000年より「固形がんの手術治療に組み合わせる補助療法の開発」を目標に活動を開始し、現在は「臨床応用を念頭に置いた基礎研究」をコンセプトに精力的な研究活動を展開しています。その一つは癌精巣抗原をターゲットとしたがんワクチン療法に着目した「がんワクチン療法の効果予測因子の解析」であり、さらに手術治療に加える効果的な化学療法や放射線療法を見出すための基礎研究として、腫瘍免疫の観点から「腫瘍微小環境の解析」を中心に研究は進行中であり、大学院生にはこれらの研究を共に行いながら、世界に発信できる「真実」を追求していただきます。

臨床医学コース

北海道大学大学院医学研究科では "高いレベルの臨床研究を遂行できる人材の育成を図る" ことを目的に2008年度より大学院博士課程に臨床医学コースが設置されました。それと同時に教室においても、従来よりあった基礎研究コース(現:基盤医学コース)とは別に、"大学病院で高度な臨床を行いながら、臨床研究を行う" 臨床医学コースを設置しました。基盤医学コースでの研究は臨床から完全に離れて研究を行っていますが、本コースでは大学病院でしか経験出来ない高度な臨床経験を積みながら、大学院生一人一人が例えば「周術期の患者管理法に関する研究」などといった一つの大きな臨床的なテーマ(大目標)をもち、そのテーマに即した複数の研究課題に挑戦します。2~3年間の研究生活の中で、高難度手術の臨床をこなしながら、さらに研究を確実に遂行していくためには多大な努力と自己鍛錬が必要ですが、この経験は大学院卒業後の臨床において、合理的思考能力、問題解決能力、制限時間内での行動規制能力として大いに生かされます。

原則として大学院生はテーマに則した診療グループに配属され、グループ単位で指導を受けることになります。グループ内では毎週、研究の進捗状況がチェックされ、結果の教官会議での報告を通して臨床と研究のバランスを維持できます。また、月に1度程度、毎週月曜午後に行っているResearch conferenceでの報告を行うことで、教室員からの評価とアドバイスを受ける事ができます。

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