海外留学者からの手紙

マギル大学(モントリオール)

モントリオールより

こんにちは。カナダ、モントリオールにあるマギル大学外科へ臨床研究留学中の73期、倉島庸です。2009年4月からモントリオールで家族と留学生活を始めてから、早いもので2年が経ちました。この2年間の私の留学経験を簡単にまとめてみました。

【マギル大学】

マギル大学は1821年に創立されたカナダで最も歴史ある名門大学で、中でも医学部はQS World 大学ランキング2011年度版において13位にランキングされるなど、海外からも高い評価を得ています。また北米医学教育の基礎を築いたウイリアム・オスラーが卒業し教鞭をとった大学であることも良く知られています。

【外科教育について】

私はMinimally Invasive Surgery教室において外科教育、主に"シュミレーターを用いた外科レジデント教育"に関する研究をしております。現在アメリカ、カナダでは外科レジデント教育カリキュラムの大規模な再編成が行われています。その背景にはレジデントの労働時間の短縮、患者の安全性確保・コスト削減への意識の高まり、腹腔鏡手術の発展そして医療用シュミレーターの開発に伴い、術中だけでなく手術室の外での新しい効率的なトレーニングプログラムが必要とされてきたことにあります。すなわち"see one, do one, teach one"という考えはもはや過去のものとなり、"see one, practice many, do one"という考えが主流になりつつあります。したがって北米の外科系学会においても外科の教育に関する取り組みやリサーチは、以前よりも増して重要な位置を占めるようになってきました。

【外科教育リサーチ】

私のこの2年間の仕事は、外科レジデントにとってなじみの深い鼡径ヘルニアのトレーニング、特に腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(ラパヘル)のトレーニングカリキュラムの構築でした。具体的には、レジデントの手術能力を評価するスコアの開発から始まり、ラパヘルシュミレーターの開発、ラパヘル教育ビデオ作製、ヘルニア教育コース開催まで、シュミレーションベースのカリキュラムのパッケージ創りとその有用性を示すためのリサーチでした。個々のツールだけでなくパッケージとしての教育的意義はカナダだけでなくアメリカの学会でも高く評価していただき、現在アメリカ内視鏡外科学会:SAGES(Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons)主導の公式プログラムへの採用とシュミレーターの製品化の方向で話が進んでおります。私の興味は外科教育全般であり、リサーチ以外にも機会を見つけては様々な勉強会、ワークショップなどに参加し、シュミレーションセンターのマネージメントから外科レジデンシープログラムに関することまで学んでおります。

【リサーチ指導環境】

当教室は週1回、ランチを食べながらのラボミーティングがあり、メンバーはパワーポイントを使ってリサーチの進行状況や最新データをプレゼンテーションします。雰囲気は非常に和やかですが、私自身国際学会での発表や論文投稿において、ラボミーティングでされるものより厳しく、的を得た質問を受けたことがありません。このミーティングでしっかりと議論できるように準備し、完全でない英語でなんとか論理的に説明すること、そのものが貴重な経験とトレーニングになっております。リサーチメンバーはアフリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界中から集まっており、ミーティング中いろいろな癖のある英語が飛び交うことも当ラボの特徴です。

【モントリオール生活】

モントリオールはフランス語が公用語で(マギル大学は英語環境です)、世界中からの移民が多く、カナダにありながらヨーロッパの雰囲気を持つ美しい街です。F1、ジャズフェスティバル、国際映画祭で代表されるように、夏から秋にかけては毎週何かしらのフェスティバルが行われており、街は観光客で賑わいます。私たち家族はモントリオール郊外の静かな湖畔の町に住み、「日頃は地元のカナダ人と同じような生活を」、「週末、長期休暇には予算と時間が許す限り色々な北米の街へ出かけ、また雄大な自然を楽しむ」をモットーにカナダの生活を満喫しております。

帰国まであと8ヶ月となりました。日本に帰ってからトライしたいこと、、、と思いは巡りますが、まずは今カナダでやるべきことに集中し、ベストの形で留学生活を終わらせたいと思います。

*「外科教育」のリサーチや留学に興味のある方はブログを参照下さい。御質問につきましては、医局を通じていつでもお待ちしております。
http://muhclife.blog102.fc2.com/

倉島庸

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