海外留学者からの手紙

マギル大学(モントリオール)

倉島 庸先生に引き続き、2012年6月からカナダ・モントリオールのMcGill大学に外科教育研究のため留学中の渡辺です。こちらに来て約1年半が経ちましたので留学生活、研究内容などをまとめてみました。

モントリオールの生活

モントリオールはカナダ第二の都市で、カナダの中で唯一フランス語のみを公用語とするケベック州に属しています。約380万人が生活しており、フランス語圏としてはパリに次いで世界第二の規模で、フランス文化の薫り高い街並みから「北米のパリ」と称される素敵な街です。モントリオールには四季があり、夏は短いですが、湿度は低くほぼ毎日晴天です。気温も25℃前後で、非常に過ごしやすく、Jazz festival、映画祭、F1グランプリなどたくさんのイベントも開催され、とにかく夏は最高です。しかし冬は−20〜30℃と非常に寒く、札幌から来たとはいえ、この厳しい冬はだいぶ堪えます。

カナダの他の都市と同様に移民がとても多く、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、アラブなど世界中の文化が共存しているため、レストランやスーパーマーケットもバラエティーに富んでいます。お店やレストランでは「Bonjour、Hi」と声をかけられ、「Bonjour」と応えればそこからはフランス語、「Hi」と応えると英語で会話がはじまります。ただし、バス等の公共機関ではフランス語を尊重する姿勢が大切で、「Bonjour」と挨拶をした方が、その後英語で話しをするにせよ、なんだか親切に対応してもらえます。英語を第一言語とする人も多く、また英語以外を母語とする移民も多いため、街全体が私のつたない英語にも寛容です。

カナダは、国立自然公園などが身近にあり、自然が豊かなことも魅力のひとつです。倉島先生のように川下りにはまだ挑戦していませんが(できませんので)、初心者でも手軽にキャンプを楽しむことができます。車で行ける範囲にはニューヨークやトロント、ナイアガラがあり、飛行機に乗ればロッキー山脈や北米の主要都市に3~5時間程度で行けるので、夏休みなどは少し遠出をして北米生活を楽しんでいます。

McGill大学での外科教育研究

外科教育学というと聞きなれない方も多くいるかと思いますが、欧米ではこのような医学教育研究は、基礎研究や臨床研究にならぶ研究分野として周知され、外科教育の歴史も約30年になります。徒弟制のような外科トレーニングからエビデンスに基づいたトレーニングの重要性が感心を集め、多くの研究が行なわれています。この分野においてMcGill大学の功績は広く知られており、最先端の教育、研究現場となっています。

私の所属するMinimally Invasive Surgery (MIS)教室は北米の外科研修医に取得が義務づけられている、腹腔鏡手術のトレーニングプログラムFundamentals of laparoscopic surgery(FLS)を開発したことでも有名で、他に倉島先生も携わったシミュレーター研究や手術評価ツールの開発など多岐にわたっています。教室には、研究立案、文献検索、統計、データ収集などをサポートするスタッフが存在し、皆が協力しながら研究を進めていくような雰囲気です。

これまで私が関わった研究は、FLS試験の新しいタスクの開発と妥当性評価に関するシュミレーション研究、手術評価ツールについてのシステマティックレビューです。現在取組んでいるプロジェクトは北米の腹腔鏡手術に携わる外科医のトレーニングニーズを分析するもので、インタビューとフォーカスグループ、アンケート調査からなり、質的研究と量的研究を組み合わせたものです。臨床研究や基礎研究のように数的データを扱う量的研究ではなく、数ではあらわせないようなデータを扱うので非常に労力と時間のかかるものですが、そこに隠された真のニーズを見つけ、より効果的なトレーニングを提供するといったもので、大きな使命感とやりがいを感じるプロジェクトです。

McGill大学では研究の他、実際に外科レジデントをトレーニングする機会をいただいています。結紮・縫合など基本的な外科手技、内視鏡手術手技、Cadaverトレーニングと実際に指導する経験を重ねるだけでなく、外科レジデントと交流し、研究しているトレーニング理論を実践する場としても貴重な時間となっています。MIS教室のもうひとつの特徴は、先の教育研究チームと臨床研究チームが協働していることです。臨床チームはERAS(Enhanced Recovery After Surgery)をはじめとする術後回復(patient recovery)を中心に多くの臨床研究も行なっています。毎週のようにリサーチミーティングが行なわれ、3名の教授陣のもと研究の立案、進捗状況の報告と活発な議論がかわされます。教育分野のみならず、臨床研究の見識を深める場として、また英語を学ぶ場としても、非常に有意義な時間となっています。

あっという間に留学生活もあと一年となりました。モントリオールの生活を楽しみながら、少しでも多くのものを持ち帰れるようMcGill大学での研究に励みたいと思います。

留学までや留学生活、研究内容について質問がございましたらyusuke.watanabe@mail.mcgill.caまで気軽にメールください。また、最近ブログを始めましたので、詳しい留学生活に興味のある方はご参照下さい。
http://surgicaleducation.jp/blog/yusukewatanabe/

最後に、所属する教室のGerald Fried 教授が会長を勤める米国消化器内視鏡外科学会(SAGES)総会が2014年4月にソルトレイク(米国)で開催されます。機会がありましたら、ぜひお越し下さい。
http://www.sages2014.org/

2014年3月

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