海外留学者からの手紙

ハーバード大学(ボストン)

ボストンより

2013年4月より、芦立嘉智先生の後任としてアメリカ、ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerに研究留学に来ております、83期の和田秀之と申します。

当院はハーバード大学医学部の主要教育病院の一つであり、自分が所属するCenter for Molecular Imagingは、近赤外線イメージング分野における第一人者であるフランジオーニ教授が主宰する研究室です。近赤外線イメージング自体が聞き慣れない言葉だと思いますが、外科手術では、乳癌におけるセンチネルリンパ節生検等においてすでに臨床応用されている技術です。近赤外線イメージングは、インドシアニングリーン(ICG)に代表される蛍光造影物質と、特殊なイメージング装置を用いて行われます。ICGは肝機能検査薬として馴染みの深い薬剤ですが、同時に蛍光造影物質としての性質も持っており、特定の波長の光を当てると、目に見えない近赤外線領域の波長の光を放ちます。この光を特殊な装置で検出することで、モニター上にはICGが分布しているセンチネルリンパ節のみが描出され、その他のリンパ節は全く描出されません。これにより、外科医は容易にセンチネルリンパ節を同定、切除することができます。我々はこの「近赤外線蛍光現象」を利用した、様々な領域における近赤外線イメージング技術の応用を試みています。

当研究室は生化学を担当するチームと機械工学を担当するチームとに分かれており、生化学チームが様々な臓器や腫瘍を特異的に標的とする新たな蛍光造影物質の開発を行う一方で、機械工学チームはより低コスト、コンパクトで実用的な術中イメージングシステムの開発を行っており、現在では腹腔鏡あるいは胸腔鏡下でも術中近赤外線イメージングが可能です。研究室における自分の役割は、彼らが開発した新たな薬剤やシステムを用いて、動物実験においてその有用性を確認することであり、マウスやラットなどの小動物に始まり、最終的には人間に近いサイズのブタを用いて、人間の手術さながらの術中イメージングシミュレーションを行います。実際に、この一年で、様々な臓器におけるセンチネルリンパ節理論の検証や、新規蛍光造影物質を用いた膵臓、胸腺、甲状腺、副甲状腺、神経や全身のリンパ節などの臓器特異的イメージングの研究に携わり、現在は次のステップとして、悪性腫瘍、特に消化器癌の原発巣や転移性腫瘍に対する腫瘍特異的イメージングを行うべく、新たな蛍光物質、動物モデルの準備を進めているところです。

研究室には外科医は自分一人で、同僚はみな生化学や物理工学のスペシャリストです。自分は大学院生として、こちらで一から研究を始めましたので、始めは右も左もわからない状況でしたが、同僚達との日常の会話や、週1-2回行われるミーティングでのプレゼンテーション、ディスカッションから、自分の研究についてはもちろん、専門外の分野についても学ぶ事ができます。日本で臨床をしていると、職場の同僚は必然的に同職種の方が多くなりますが、異なる分野の第一線で活躍している人達の話を聞く事は、非常に興味深く、また刺激になります。プレゼンテーションはもちろん英語です。英語が大の苦手の自分にとっては、発表の準備だけでも大変で、正直、毎週ミーティングが嫌でたまりませんでしたが、一年たった今では多少慣れて、少しずつ楽しめるようになってきています。医者としては比較的早い時期に、留学でこういった経験を積ませて頂いている事は自分としてはかけがえのない財産であり、平野教授を始め、教室の先生方の御理解、御支援に心より感謝致します。

さて、それでは仕事ばかりの一年だったかというと、決してそうではありません。ボストンはアメリカで最も古い歴史を誇る都市の一つで、街の至る所に、アメリカ独立にゆかりのある、赴き深い建物、風景が並んでいます。気候は北海道と非常に似ており、夏はそれほど暑くなく冬はそこそこに寒く、北海道出身の自分にとっては非常に過ごしやすい環境です。アメリカは人種のるつぼと言われますが、特にボストンは、国際的な企業や有名な大学、病院、研究施設が数多くあるため、随所で世界各国の人々と出会い、交流する機会があります。その一方で日本人を始めアジア人も多いので、日本食に必要な食材も容易に手に入り、生活する上で不便はほぼありません。また、海が近いためシーフードが美味しく、ロブスターやクラムチャウダーは絶品です。

アメリカは非常にスポーツが盛んで、老若男女を問わず皆スポーツが大好きです。特に、昨年は、ボストンマラソンテロの一件で春先から街に重い空気が立ちこめていましたが、レッドソックスのワールドシリーズ制覇で、秋には街中に活気が溢れていました。また、昨年、今年と、上原、田澤両投手が大活躍中で、自分も時々球場に足を運び、声援を送っています。その他、アメリカンフットボール、アイスホッケー、バスケットボールなどもボストンでは大人気で、人々は一年中、各競技のホームチームの応援を楽しんでいます。

こちらに来てからすでに1年と2ヶ月が過ぎ、ボストン2度目の夏を迎えようとしています。昨年度は、仕事や日々の生活に只々必死でしたので、本当にあっという間に時間が過ぎてしまいました。残りの留学期間は、地に足をつけて研究に取り組み、留学生活で学んだ事を少しでも教室に還元できるよう、努力したいと思います。

最後になりますが、ボストン留学や研究内容について何かご質問などありましたら、hi.hi.de0626@icloud.comにお気軽にメールを頂ければ幸いです。また、実際にボストンに来る機会がある方がいらっしゃいましたら、ご遠慮なくご連絡下さい。


2014年6月

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