海外留学者からの手紙

フランジオーニ研究所(ボストン)

ボストンより

みなさんこんにちは。平成9年入学、80期の芦立と申します。現在自分は学位取得のためアメリカのボストンで研究留学中です。

ボストンはアメリカでも最も歴史の古い街の一つで、その歴史は1630年からイギリスの宗教弾圧を逃れて来た清教徒ピューリタン達によって築かれたことに始まります。それ以来ボストンはボストン茶会事件やアメリカ独立戦争など、アメリカ建国の重要なイベントの舞台となってきました。市内および周辺地域には多くの総合・単科大学があり、高等教育の中心であるとともに、医療の中心地でもあります。ハーバード大学に代表される大学も多いためか、日本からの留学生も多い街です。

自分が在籍しているボストンのフランジオーニ研究所は2005年から田中栄一先生、松井あや先生と継続的に第二外科から医師を派遣してきました。2009年の四月、松井先生の帰国に合わせて、自分が派遣されることになりました。自分が優秀だったから選ばれた訳ではなく、同期の中では自分が一番強く留学を希望していたため、近藤教授からお話を頂くことになりました。希望していたとはいえ、突然の近藤教授からのお話で、正直迷いましたが、きっと良い経験になると思い、この度の留学を決めました。ボストンに限らず留学する先生の多くは、留学先を見つけることにも一苦労と聞きます。自分は恵まれた状況で留学先を決めることが出来たと思います。第二外科、近藤教授には大変感謝しております。

さて留学が決まって、いろいろと準備が必要でしたが、やはり最大の難関は語学力でしょうか。自分は帰国子女でもなければ、特別な英語の教育を受けた訳でもないので、高校英語程度の英語力しかありませんでした。お話を頂いたのが11月で、そこから3月まで、英会話スクールに通ったり、通勤中にポータブルオーディオプレイヤーで英会話のCDを聞いたりしました。当時は必死に英語に取り組んだつもりでしたが、振り返れば、この期間の訓練は、実際に英語力をつけるというよりは、照れること無く英語を話すようにする訓練、あるいは英語がわからないことに慣れるという訓練だったと思います。結局語学的には、決して盤石とは言えない状況で、緊張しながら国際線の飛行機に乗ったことを覚えております。

他にも留学にあたって必要な事務手続きは多岐にわたり(国際免許書の発行、ビザの発行、海外転居届などなど)、こちらでは全て書き尽くすことは難しいですが、同門の先生や医局から勤務時間などの融通をつけてもらって、何とか準備ができたと思います。

自分が渡米したのは大学院在籍二年目のときでしたが、それまで臨床しかしたことがありませんでした。基礎研究自体が初めてだということ、さらに英語で研究をしなければならないということに大きなプレッシャーを感じました。渡米前に行った準備としては、田中先生や松井先生が執筆された論文を含む、フランジオーニ研究所から発行された論文に目を通して予習をするくらいが精一杯でした。

こちらでの研究内容ですが、一言で申し上げますと、「フランジオーニ博士の開発した近赤外線カメラ(FLARE™)を利用したイメージガイドサージャリーの研究」ということになります。このデバイスを使用してインドシアニングリーン(ICG)やメチレンブルー(MB)などの近赤外線領域にスペクトルをもつ蛍光色素を局所投与あるいは全身投与することで、肉眼では見えないリンパ流、血流を描出することができます。自分の研究は主にブタを使用し、実際の手術にこのデバイスがどう応用できるかということを試しています。臨床応用に結びつく内容であれば、第二外科の専門である消化器外科、呼吸器外科に限らず、形成外科などの分野でも研究を進めて行くことが可能です。具体的に自分が行っている研究のテーマは、この近赤外線カメラを使用した胆管の描出、胸腔内のリンパ管である胸管の描出、皮弁を作成した際に血流が保たれている領域の描出(形成外科医と共同で研究中)などです。

自分の研究以外にも、外科医ということで、同じラボの仲間からは動物の手術は何でも出来ると思われる節があり、ラット、マウス等の小さな動物の実験の手伝いを依頼されることも多々あります。(留学するまでブタはもちろん、これらの小動物に触れたことも無かったのですが...。)外科医冥利に尽きるといったところでしょうか。現在のラボには外科医としてのニーズが確実にありますので、前述のように研究に関して素人だった自分でも何とかやって来られたのだと思います。

当然研究をするからには論文を発表しなければならず、実験に費やす時間よりも多くの時間を論文の執筆に費やします。これはどこで研究しても同じかとおもいます。ただしこちらで論文を執筆するにあたって有利な点は、普段から英語に接していることと、添削をしてくれる方も(当然ですが)ネイティブですので日本にいるよりは執筆が容易であるという点だと思います。

海外での生活

お恥ずかしいですが、渡米当初は英語を話したくない一心、休日でもあまり出かけませんでしたで(地下鉄に乗るのも、買い物をするのも嫌でした)。しかし実際に話してみると、こちらの方は皆さん陽気でフレンドリーな方が多いので、英語が不自由でも生活するのにはあまり問題ありません。語学力がネックとなって留学を敬遠される方も多いと思いますが、仕事・生活の上でそこまで問題になるものではありません。

金銭的には、収入は日本にいた頃に比べれば少ないです(アメリカで無給で研究している先生もいらっしゃるので贅沢なのかもしれません)。家計を逼迫させる最大の理由は、高額の家賃にあります。東京から来た方からみればそこまで高くはないようですが、市内のアパートは札幌で自分が借りていた家の2-3倍の家賃が相場です。自分が借りているのは築80年のアパートで、もし地震があったら大丈夫だろうかとびくびくしながら住んでおります。ただし、家賃以外には食料品、衣類などの物価は安いので(売っている量も半端ではありません)節約しながらですが、なんとか過ごしております。

アメリカでの生活で、渡米前に一番心配していたのは、治安の問題でしたが、ボストンは治安も良く、深夜の一人歩きなどしなければ大きな問題もないようです。ただ、先日自宅近くで白骨化した頭部が発見されたり、近くではないですがボストン市内で発砲事件が起こったりしたようなので、やはり日本と同じレベルの治安を望むのは難しいです。

エンターテイメントとしては、アメリカの4大スポーツ(野球、バスケ、アメフト、アイスホッケー)それぞれにボストンをホームタウンとしたチームがあり、どのチームもかなりの強豪ですので、スポーツ好きの方は一年を通して楽しめると思います。かく言う自分もメジャーリーグの地元球団レッドソックスの松坂投手の試合を見て、海外で頑張る日本人の姿に励まされたものでした。

以上、こちらでの体験を書かせて頂きました。留学に興味のある方のすこしでもお役に立てればと思います。もしご質問などあれば、医局を通じて出来る限りお答えしたいと思います。

これからも第二外科あるいは日本人の名前に恥じないように頑張ります。

芦立嘉智

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