海外留学者からの手紙

Virginia Mason Medical Center(シアトル)

シアトルでの研修を終えて

87期の井上綾乃と申します。

今回幸運にも野路先生にお話をいただき、2018年2月5日から2週間、シアトルのVirginia Mason Medical Centerで研修するチャンスをいただけましたので、研修を終えてのご報告をさせていただきます。 

シアトルはワシントン州最大の都市で、自然の美しさから「エメラルド・シティ」の愛称を持ちます。その一方で世界的な産業都市でもあり、スターバックスやアマゾン、マイクロソフトなどの本社があることでも有名です。そんなシアトルのダウンタウンから程近いところにVirginia Mason Medical Centerはあります。Virginia Mason Medical Centerは1920年設立の私立総合病院で、医療サービス分野における「トヨタ生産方式」を導入し全米でも屈指の評価を受けています。今回私は倉島先生のご友人であるDr. Adnan Alseidiのご指導のもと、肝胆膵外科チームで回診、手術、カンファレンス、外来など、単なる見学者ではなく基本的にはレジデントと一緒になって学ばせていただくことができました。

2月のシアトルは日の出が7時半なのですが、朝回診は6時20分頃からで、毎日真っ暗な中をドキドキしながら通勤していました(実はシアトルは治安が良く、全米で最も住みやすい街と称される程なので、危険を感じることはありませんでしたが...)。その上シアトルは坂が多く、私の滞在していたアパートメントは海沿いにあり最も低い立地にあったため、毎朝がちょっとした山登りのようでした。

手術は腹腔鏡下肝切除やPD、DPなど肝胆膵手術を中心に、ヘルニアやバイパスなど様々な手術に、多くは手洗いをして参加させていただきました。基本的な概念は同じでもその捉え方や手技には我々とはまた別のセオリーがあり、その違いを議論しながらの手術は大変勉強になりました。その一方で「この手技は日本から学んだ技術だよ」と教えていただくこともあり、改めて我々の手術を見つめ直すよい学びの場となりました。

カンファレンスは他科との症例検討だけでなく、Mayo ClinicやMD Andersonなど全米とカナダを含む26施設との合同ネットカンファレンスやレジデントによるレクチャー、M&Mなど多岐にわたり、いずれも活発な討論が印象的でした。中でも、エキスパート達に混じってレジデントが対等に発言していたことには大きな驚きを感じたとともに、モチベーションにも繋がりました。

その他、シアトル外科学会に参加させていただいたり、Dr. Alseidiをはじめとするスタッフの方々にディナーに誘っていただいたり、盛りだくさんの濃厚な2週間でした。

スタッフの方々は皆優しく、私の拙い英語にも真剣に耳を傾け、困っている時には例え知らない人でも声を掛けてくれました。手術室ではBGMに合わせてノリノリでダンスをし(!!)、なにかにつけて笑顔でハグしてくれる...そんな楽しくて温かい病院でした。カフェテリアでレジデントと一緒にご飯を食べながら、お互いの国のことや家族のこと、時には仕事の愚痴を言い合ったりして過ごすといったなんでもないような時間も、とても素敵な思い出になったと思います。

私は学生の頃から留学に興味を持っていましたが、その頃はまだ明確な理由も行動に移す自信もなく、ただ漠然と憧れている状態でした。しかし、実際に医師として働くようになってしばらく経つと、限られた環境で漫然と過ごす事に若干の焦りと不安を感じるようになりました。特に、国内留学で2箇所の施設で研修させていただいた時から、その思いは一層強くなりました。自分で思っていたよりも世界はかなり広いというのが率直な感想です。

私にとって、今与えられた環境から学ぶことはまだまだたくさんありますが、海外の医療に触れて広い世界を知ることは、改めて自分の立場を見つめ直し、目標に向かって新たなスタートを切る良いきっかけになったと思います。

海外短期研修に際し色々と調整をしてくださった平野教授、野路先生、倉島先生をはじめとする諸先生方や、私が不在の間、病棟の仕事を引き受けてくれた同期に感謝しつつ、今回得た多くのものをいずれ医局に還元できるように頑張ります。もちろん将来の自分にとっても大きな財産となるよう、日々励んで行きたいと思います。

ページの先頭へ