海外留学者からの手紙

Queen Elizabeth Hospital, University Hospital of Birmingham(イギリス)

イギリス、バーミンガムでの短期間研修を終えて。

87期の大場光信です。この度、2017年11月にイギリス、バーミンガムのQueen Elizabeth Hospital, University Hospital of Birmingham(以下QEと致します)で、短期間研修させていただきました。

バーミンガムは産業革命の時代に主要な運河と鉄道が交差する工業都市として発展し、現在でも商業都市として栄えているイギリス第2の都市です。市街地では市立中央図書館やブルリングショッピングセンターなどの前衛的な建築物の傍らで、運河と煉瓦造りの建物が歴史を添えています。QEは中心部から車で20分程度の郊外にあり、高台から住宅地を見下ろすとても大きな病院で、病床数は1215床、ICUは100床、手術室は30部屋も有しており、8200人以上が勤務しています。

私は肝移植、肝胆膵手術全般をこなす肝胆膵外科部門で研修させていただきました。

短期研修のお話をいただいてから、最初に着手したのは事務手続きです。イギリスは移民対策や昨今の世界情勢を反映して入国審査が厳しく、それに倣ってか病院研修に必要な書類も多岐に渡りました。履歴書や住居証明書等々の提出は理解の範疇でしたが、短期間の滞在にも関わらずビザの取得を指示されたり(実際は不要でしたが...)、無犯罪証明書の発行を要求され、警察署の鑑識課で指紋を採取されながら早くも日本の治安の良さを実感しました。

現地で驚いたのは、職員の国籍が非常に多彩なことで、欧州諸国はもちろんのこと、エジプト、パキスタン、スリランカ出身のコンサルタントやレジデントもおり、むしろイギリス人を探すのが難しいという編成でした。

肝胆膵外科部門では、2部屋の手術室が毎日稼働し、年間200例以上の肝移植と並行して、400例前後の肝切除、200例前後の膵切除が行われています。様々な手術を見学致しましたが、ここではQE肝胆膵外科部門の顔とも言える肝移植のお話をさせていただきます。滞在期間中には、5例の肝移植がありました。肝移植の手術は、術者がレシピエントの肝臓を摘出している間に、隣接する冷温室で冷温保存されたグラフトのトリミングを同時に行い、その後、肝静脈、門脈、肝動脈、胆管の順に素早く再建します。移植手術では、臓器保存の観点から速さも重要な要素となるため、特に血管吻合が終わるまでは独特の緊張感がありました。手術手技は言うまでもなく、手順も洗練されており、麻酔科、技師、看護師の役割分担も明確で無駄がありませんでしたが、それでも全行程が5時間程度で終わることには衝撃を受けました。

余談ではありますが、手術見学に際して現地学生の貪欲さも印象に残っております。術者の真後ろの足台を巡ってレジデントと競合する程、意欲的でした。術者へも積極的に質問を投げかけ、学生ながら全く物怖じしない度胸には瞠目すべきものがありました。

手術見学以外には、病棟ミーティング、多職種合同ミーティング、移植ミーティング、抄読会、教官によるレクチャーや、病棟回診、外来にも同席させていただきました。レクチャーの内容は幸運なことに、QEで盛んに研究されている常温機械灌流でした。常温機械灌流とは、ドナーの肝臓を冷却せずに酸素化血液、薬剤、栄養素を灌流させて保存する技術で、グラフトの長期保存への期待に加えて、一般的に状態が悪いとされる心臓死移植におけるグラフトのViability判定や、短時間の灌流による臓器機能回復の意義からも注目されている臓器保存法です。残念ながら滞在中、実際に見学する機会には恵まれませんでした。

現地の生活について、必ず聞かれることは食事事情です。産業革命の弊害、紳士の質素志向の流行などを背景として、『イギリスは飯がまずい』との悪評が浸透しております(イギリス人自ら自覚しているようです)。実際に代表的なイギリス料理は、大きな肉や魚の傍らに、ポテトや豆、サラダを付け合わせる飾り気のない様式でしたが、味はいたって普通であり、予想以上に楽しむことができました。ただし、市販の菓子類の甘さは甘党を自負する私の常識も凌駕しており、大半の日本人にとって口を合わせるのが大変だと思われました。

私の世代で、短期間海外で研修させていただく意義を考えました。特に有意義と感じたことは、同世代の外科医との交流や日本の医療の質の高さの認識です。

QEのような有名病院に勤めるには、自分で病院を探して面接で売り込む必要があり、熱意や活動性の高い様々な国籍のレジデントが数多く勤務しておりました。そのような意欲的な同世代との交流は刺激的で得難い経験となりました。

また、手術見学や抄読会などへの参加を通して、日本にいても労を惜しまなければ世界の中でも高い水準の技術や知識を習得できると感じました。

そのような恵まれた環境にあって世界で活躍するにはどうすべきかを考える機会ともなりました。質の高い医療を淡々とこなすことは、目指すところではありますが、当然求められるところでもあり、その上でその成果を発信することが重要なのだと考えるに至りました。

日々の診療に加えて学術活動、英語の訓練を継続し、堅実に実力を充実させていきたいと思っております。

平野教授、野路先生を始め、教室の先生方の御理解、御支援に心より感謝致します。

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