近年消化器外科の分野では内視鏡下手術が急速に広まっており、早期胃癌や大腸癌ではほぼ内視鏡下に行われています。しかし難治性癌である食道癌や肝胆膵領域の癌においてはいまだ標準的とは言えず、安全・確実な術式の確立が急務であります。
当科では食道癌の治療においては早くから内視鏡下手術を導入していましたが、最近広まりつつある腹臥位(うつ伏せ)での内視鏡下手術を開始しました。その際に通常は片方の肺を虚脱させて行うところを、虚脱させないで行うことで肺炎を含めた呼吸器合併症が減少するなどの有利な点があるかどうかを検証しています。
また肝胆膵領域においては肝切除の一部と尾側膵切除でようやく保険診療が認められたばかりであり、当科で多数行われている肝門部胆管癌手術や膵頭十二指腸切除術への内視鏡下手術の導入はいまだ研究段階です。現在肝門部胆管癌に対しては手術創の縮小をねらい、内視鏡下に肝臓を剥離するハイブリッド手術の安全性を検討する自主臨床試験を行っています。また膵頭十二指腸切除術を内視鏡下で安全に行うために、手術のやり方を標準化するための検討を行っています。
内視鏡下手術を安全・確実に行うために新しい機器の開発も行っています。
一つは千歳科学技術大学と協力し手術中にリンパ節を確認するための内視鏡システムを構築しています。これは近赤外線が組織の深くまで届くことを利用したもので、この近赤外線の画像を通常の内視鏡画像に重ね合わせることで、腫瘍に一番近いリンパ節を確実に見つけることが出来るようになります。そのリンパ節を調べることにより、手術で切除する範囲を縮小できるようになり、ひいては体に対する負担を軽減させることができるようになります。
二つ目は、通常の内視鏡下手術は腹腔内に二酸化炭素を注入して行いますが、このかわりに液体を注入して手術を行うための機器を千葉大学と共同で開発しています。気体ではなく液体を用いることで温度・圧が制御された空間となるため、通常の手術では曇りや汚れのため頻回に内視鏡の清掃が必要でしたが、それがなくなるためにスムーズな手術進行が可能となります。また水圧がかかることにより手術中の出血量軽減も期待できます。